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寺田啓佐著『発酵道』を読んで感じた『発酵する』ということとこだわりの醸造哲学

寺田啓佐著『発酵道』を読んで感じた醸造哲学

今更ですけど寺田本家さんの当主寺田啓佐氏が書いた『発酵道』を読んでみた

寺田啓佐著『発酵道』

この本は寺田本家という造り酒屋さんにお婿さんとしてよばれた寺田啓佐さんの人生やストーリーから感じたことが書かれています。

読んだ感想は『自分が考えることがそのまま商品になるのだなぁ…』と感じました。

造り酒屋の蔵元に婿入りした寺田さん

寺田本家さん

寺田本家さんは江戸時代の延宝年間に創業した約300年続く造り酒屋です。

本を読んでわかったことですが、代々娘さんが生まれる家系のようで、おむこさんとして呼ばれることがしばしたあるようです。
寺田啓佐氏も電化製品の営業を前職でしていました。何年かキャリアを積んだ後、許嫁として結婚されました。寺田本家さんは大御所なので3回結婚式があったようです。びっくりしました。

婿にきてから日本酒が売れない時代へ…自分で儲かる会社にしよう!

300年以上続く酒屋さんに嫁いだのはいいですが、時代の流れはちょうど日本酒が売れない時代になって行きました。そんな中、寺田さんは前職が営業ということもあり、『儲ける会社』に自分がしよう!!と決意しました。

儲かる酒屋にするためには…

  • 仕入れ価格(原価管理)を適正にする
  • 商品を在庫なしで売り切る
  • 不要な経費や人件費を削減する

etc…

商材は電化製品からお酒に変わっても基本は変わらないのが原理原則だと判断されました。
そうすれば、必然的に『利益』は確保できる…

利益を確保するために重要視した、酒税の掛からない『桶売り』

お酒は法律で『酒税』といって税金が発生します。
その計算や税務処理は手間が掛かるため、手間がいらない『桶売り』の製造に重きをおくようになりました。

桶売りとは?

蔵元が仕込んだお酒(原酒)をそのまま、大手メーカーさんなどに持って行き納めること。
大手メーカーさんはその仕入れたお酒を加工したりブレンドして、自社ラベルで販売する。酒税は大手メーカーさんが払う。

桶売りするために生産方式・方針を変更

桶売りは大手さんが買い取ってくれるために、安定した量をみこめますし、利益の計算もしやすいのが魅力ですね。そのため、大量に仕込まなければならないために、原価を安く、大量生産方式にしなければなりませんでした…

お酒業界では『三倍増醸清酒』(さんばいじょうぞうせいしゅ)という生産方式です。
アル添、三増酒とも呼ばれるそうです。

◆三倍増醸清酒とは?
簡単に説明すると添加物を使って仕込んだお酒。麹と水だけでお酒を作るのではなく、醸造アルコールを添加して、ブドウ糖や水飴などの甘味料やコハク酸ナトリウム、グルタミン酸ソーダなどの化学調味料を使って風味を整えて作るお酒の作り方

発酵道の23ページに印象深く書かれていました。

こういう添加物を使うと、なんと元の三倍量の酒ができる。だから「三増酒」という。コストは安いし、量産にも苦労しない。一度やり方を知ってしまったら、もうやめれない、酒造メーカーにとってはまさに「おいしい酒』なのだ…(引用おわり)

…一度やり方を知ってしまったらもう、やめれない…、なまなましい言葉に読んでいてつばが出ました。

その時、寺田さんはこう考えた、感じたそうです。

『たとえおかしな級別審査であれ、不自然な物を加えた酒であれ、見えているのは売上だけの数字だけなのだから、おかしかろうがおかまいなしだ。』

都会で家電製品をガンガン販売し、勝つことを目標に死にものぐるいで仕事をしてきた人間にしてみれば「食品添加物に、何か問題あるの?安全性?だって国が認可しているのでしょ?添加物なしのお酒なんてどこの酒屋だって望んでいませんよ」(p26)

いつしか、お酒の質よりも数字や利益、生産効率を追い求めるようになったようです。
『寺田本家』という看板と、家族を養うということもあったようですね。

寺田本家さんの本の画像

『日本酒が売れない…』イライラするストレスと自分だけが頑張っている感。

しかし数年後、洋酒やビールなどの新興勢力におされていきます。利益を確保できていたメインである『桶売り』も例外ではありませんでした。

売上は落ちるのに、オイルショックなどで、製造原価は上がっていく一方だったようです。
お酒は売れないのに、経費はかかる…。利益は当然減る…。何をやってもうまくいかない…

『地酒』ブームがボチボチと起きても、「三増酒」まで手を出してしまってはもう、本物作りの酒つくりに戻ることはできない…そう寺田さんは感じたそうです。

そうして、いろいろと商品開発をしたり、売り方を変えてみたり、仕方を変えてみたり…。色々試行錯誤、思い悩む日々が続きます…。

いろんなストレスから『自分だけががんばっている…』と感じるようになりました。
世の中が悪い、従業員さんが良くない、当然矛先は、家族にも向いていきました…。

日にまして、タバコの量が増えて一日50本ものんでいたようです。食生活も乱れました。
そうしたときに、大きな病を患うようになります重度の『十二指腸潰瘍』です。

どん底からみえてきたこと

寺田本家さんに婿入りしてから10年の35歳の時に潰瘍が悪くなり、入院することになりました。
大手術もしました。

そして寺田さんは病床で『人間として生きるとは…?』というのを考えるようになりました。

長い間悶々とするうちに『これまでの生き方や考え方そのものが、生き詰まってしまった原因なのだと気づきました。自分自身の反自然的な行為や不調和の積み重ねが【腐る】という事態を招いた。だから破綻した。だから道から外れた…』と著書に書かれていました。

いかに自然とのかかわり方を見直すか?

なぜ、自分の身体や会社の経営が腐ってしまったのか?
そもそも腐るとはなんだろう?ということから考えを見直したそうです。
そして、『発酵すると腐らない』ということに気づきました。

寺田本家

50ページの文章は非常に良いことがかかれていました

蔵元に入って10年にして、ようやく気がついたのである。蔵は金を得るためにあるんじゃない。自分がここにくるずっとずっと前から棲みついていた微生物たちが力を合わせて「発酵」を続けている場所だったのだ。

寺田さんはこの事を自分の『醸造哲学』にするんだ!というのが文章から伺えました。そしてお酒の仕込みの仕方も変えることにしました。

本物のお酒を造ろう

今までのお酒作りをやめて、本物のお酒をとことん造ろうと決意します。
原料も安いお米や添加物まみれではなく、農薬や化学肥料を使わない米でのお酒作りを決意するようになりました。これがアカンかったら蔵をやめる!!そんな背水の陣での決意、命がけの決意だったそうです

あなたのお酒はお役に立ちますか?

亡き父の師、常岡一郎氏に寺田さんは教えを乞うようになりました。

そこで先生に「あなたのお酒はお役に立ちますか?」と質問されました。

寺田さんはその時は、そう言われると自信がない。そもそもお酒は飲めば飲むほど不健康になるものですし、家族に一人酒乱がいれば家庭崩壊、人様のお役どころか、人に害を及ぼす物では?と感じました。

そのような商品で生計をたて、会社も我が家も人様の不幸の上に成り立っていた…。愕然とした…。

思い悩むときもあったようですが、お酒は昔は『百薬の長』と呼ばれていた…。イメージダウンした日本酒をもう一度、『人様のお役に立つような酒を作る!!』というのをテーマにしました。

基本的に日本酒はほどよく飲めば長命になる研究事実や血圧を下げたり、生活習慣病、美容効果などが沢山有ることに気づきました。そして、そのようなみんなに喜ばれる酒を作りたい…自分の都合を捨て、会社の都合を捨て、ただただ、飲んでくれる人の喜ぶ顔を思い描いて…そんな思いがよぎったようです

速醸をやめ、山廃仕込のお酒『五人娘』

昔ながらの伝統的製法に基づいた日本酒を仕込みその名を『五人娘』と名づけました

しかし、販売開始しても全く売れなかったようです。
いきなり「無添加・無農薬でお酒つくりました~」と言っても二〇年前の話なので誰も相手してくれませんでした。自然食やオーガニックもマイノリティで認識すらなかった時代です。

赤字がさらに上乗せされ、銀行やコンサルからも『経営(原料や製造コスト)がおかしい!!』と再三指摘を頂いたようです。しかし、モノ作りの思いは変えることは絶対しなかったようです。『きっとこの商品がいいものだと分かってくださるお客様がいるはず!!』そう思って営業努力をしました。

そして、時代がやっと追いついてお酒が売れるようになってきました。

結論・感じたこと

結論はもっと早く読んでおけばよかった…とそう感じさせるほどの充実した内容でした。
職業柄、お味噌も発酵という過程を踏まえて出来上がることや、市場が縮小傾向にあり商品自体が売れにくいトレンドや、生産効率、原価コストをさげるための温醸や添加物…そのような似ていることがものすごく『後戻りができなかった…』という箇所が印象的・共感しました。寺田本家さんのダイナミックな人生や醸造哲学は非常にものすごいものがありますね。

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